タックスヘイブン対策税制をめぐる最高裁判決

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タックスヘイブン対策税制をめぐる最高裁判決

日税国際税務フォーラム

国際税務ニュースレター

2017年11月号

今回のテーマ:タックスヘイブン対策税制をめぐる最高裁判決

海外子会社の所得にタックスヘイブン対策税制を適用した課税処分(2008年及び2009年3月期)をめぐる訴訟の上告審で、最高裁は2017年10月24日、大手自動車部品メーカーであるデンソーの「海外子会社の主たる事業は地域統括業務である」という主張を認め、名古屋国税局による約12億円の課税処分を取り消す判決を言い渡しました。

デンソーは、後続する事業年度(2010年及び2011年3月期)に受けた同様の課税処分の取り消しも求めており、名古屋高裁で勝訴しています(2017年10月18日判決)。

今回の最高裁判決は、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件のうち「事業基準」について、株式等の保有を主たる事業とすることの意義を明らかにしたものとして評価されるものと考えられます。

事業基準の意義

2017年度税制改正前のタックスヘイブン対策税制においては、適用除外要件をすべて満たす特定外国子会社等には会社単位の合算課税は行われません。この適用除外要件の一つである事業基準は、軽課税国に本店を置くことに十分な合理性を見出し難く、我が国に本店を置いても十分に営むことができる業態を特定するための基準であり、特定外国子会社等の主たる事業が次の三つに該当しない場合に満たされるとされています。(措法66条の6第3項)

①株式等若しくは債権の保有

②工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの若しくは著作権の提供

③船舶若しくは航空機の貸付

今回の訴訟では、デンソーのシンガポール子会社が、上記①の株式等の保有を主たる事業としているかどうかが争点となっていました。

 

原審が確定したシンガポール子会社の事実関係の概要

①デンソーの100%子会社としてASEAN地域の統括業務を行うことを目的として設立。

②ASEAN地域の子会社13社及び関連会社3社の株式を保有していた。

③シンガポールに現地事務所を構え、従業員30数人のうち20人以上は地域統括業務を担当、持株に関する業務のみに従事している者はいなかった。

④保有する固定資産は全て持株に関する業務以外の業務(大半は地域統括業務)に使用していた。

収入金額のうち、地域統括業務の中の物流改善業務に係る売上額は約85%である一方、所得金額の

8~9割は保有株式からの配当が占めていた。

主たる事業に関する原審の判断と最高裁の判断

原審は、「株式の保有」は、単に株式を保有し続けることに限られず、株式発行会社を支配し管理するための業務もその事業の一部を成すことから、地域統括業務は株式保有に係る事業に含まれる一つの機能に過ぎないとして、子会社の「主たる事業」は株式の保有であると判断しました。

しかしながら最高裁判所は、次の理由を挙げて、シンガポール子会社の「主たる事業」は地域統括業務であったと認めるのが相当であるとし、事業基準を満たすと結論付けました。

①「主たる事業」は、「事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定」し、複数の事業を営んでいるときは「それぞれの事業活動によって得られた収入金額または所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である」こと。

②2010年度税制改正により導入された「統括会社」の概念(改正後の措置法66条の6第3項)にも触れ、事業基準を満たすこととなる「統括会社」はもともと株式等の保有を主たる事業とするものであって、それ以外の統括会社はその対象となるものではないから、この改正経過を根拠にシンガポール子会社の統括業務が株式の保有に係る事業に包含されるわけではないこと。

③上記(2)の事実関係を総合的に勘案すれば、シンガポール子会社が行う地域統括業務は「相当の規模と実体を有するもの」であり、所得金額のうちに株式の受取配当の占める割合が高かったとしてもそれは地域統括業務によってグループ会社全体に原価率が低減した結果生じた利益が相当程度反映されていたためであり、地域統括業務が事業活動として大きな比重を占めていたこと。

さらに上記(2) ③ ④等の事実関係によれば、事業基準以外の適用除外基準もすべて満たしていたと認められるとして課税処分を取消しました。

 

お見逃しなく!

2017年度税制改正により「適用除外基準」は「経済活動基準」にその名称が変更されましたが、基準内容の大枠は変わっていません。外国関係会社が経済活動基準を全て満たす場合には、受動的所得の合算課税のみが課税対象となります。