日税国際税務フォーラム

中国会計・税務実務ニュースレター

2017年11月号

今回のテーマ:中国からの撤退に係る移転価格調整リスクについて

近年、外資企業が中国から撤退する際の税務清算の段階において、税務局が撤退企業に対して、移転価格調査を重点的に行うケースが増加しています。今回は、実際の調査事例を採り上げて、中国撤退時の移転価格調査リスクを紹介します。

1. 調査対象法人の概要

中国法人A社は日本法人B社の100%の子会社です。A社は部品のメーカーで、B社の注文を受けて生産した部品を、すべてB社に輸出販売しています。A社の利益は長年にわたって低迷し、特に2015年以降は中国の人件費高騰により、赤字に陥ったため、B社はA社を解散して、人件費の安い東南アジアに生産拠点を移転することを決定しました。

A社の直近5年間の損益状況は下記の通りです。

単位:百万円

項 目 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
売上高 100 95 110 100 80
売上原価 80 74 89 81 62
販売管理費 20 20 20 20 20
営業利益 0 1 1 -1 -2
総原価営業利益率 0.0% 1.1% 0.9% -1.0% -2.4%
目標利益水準 3.0% 3.0% 3.0% 3.0% 3.0%
目標営業益 3 2.82 3.27 3.03 2.46
税率 25%
追徴税額 0.75 0.455 0.5675 1.0075 1.115

 

2. 移転価格調査における税務局の指摘

税務清算プロセスの税務調査において、税務局はA社に対しておおむね以下のような指摘を行いました。

① A社の赤字は、親会社からの部品発注額の低迷に伴うA社工場の稼働率不足が原因であること

② A社は単一機能の製造業者である以上、親会社B社が負担すべき経営意思決定に伴うリスクを負担すべきでないにもかかわらず、親会社製品の販売不振、研究開発の失敗等に起因する経営リスクを実質的に負担させられる結果となっていること

③ 従って、A社は単一機能の製造業者の平均利益水準を確保すべきであること

税務局は以上の指摘を踏まえ、企業所得税の追加納付を要求しました*。

*特別納税調査調整および相互協議手続に関する管理弁法」(国税総局2017年6号)-第28条

企業が国外関連者のために来料加工または進料加工等の単一的な生産、販売または契約型研究開発業務に従事する場合、原則として合理的な利益水準を維持しなければならない

 

お見逃しなく!

直近2年間連続して赤字が生じた企業が、中国から撤退する際には、移転価格調査を受けるリスクが特に高くなります。

移転価格調査は一般的に最低でも半年以上の期間を要するとともに、移転価格調査が完了するまでは、清算手続を進めることができません。この結果、清算スケジュールが大幅に延長し、撤退コストが当初の予想よりも増加する可能性があります。さらに、移転価格税制違反と判定される場合、最大10年間の本税・利子税等の追徴が行われますので、納税資金が不足するおそれもあります。この場合には、普通清算ではなく破産手続きに移行しますので、日本本社に思わぬ不評をもたらしかねません。

このような状況を回避するには、企業はできる限り合理的な利益水準を確保すること以外にも、税務局の質疑に適切に対応するために、社内で取引価格の設定基準や関連する証明書類を事前に準備しておくことが求められます。