ホンダ訴訟に見る移転価格税制における独立企業間価格の算定方法

日税国際税務フォーラム

国際税務ニュースレター

2015年9月号

今回のテーマ:ホンダ訴訟に見る移転価格税制における独立企業間価格の算定方法

6月13日付の日本経済新聞は、大手自動車メーカーである本田技研工業(以下H社)がブラジル子会社との取引を巡り「移転価格税制」に基づいて追徴課税されたことを不服として、国に取り消しを求めた訴訟で、東京高裁で控訴を棄却(5月13日)された国側が上告しなかったことを報じました。この結果、約75億円の課税処分を取り消した一審、二審判決が確定し、H社の請求が全額認められることとなりました。

 

1       事案の概要

H社は、ブラジル・アマゾナス州に設置されたマナウス自由貿易地域(マナウスフリーゾーン[i])でオートバイの製造・販売事業を行う子会社との間で、オートバイ及び部品等の販売、製造設備等の販売、技術支援、ノウハウ・ブランドの使用に係る取引(以下、国外関連取引)を行っていました。H社は国外関連取引により受けた対価の額を益金の額に算入して法人税の申告を行ったところ、税務当局は、それらの国外関連取引の対価の額が独立企業間価格に満たないことを理由として、移転価格税制を適用し、平成10年3月期から平成15年3月期の各事業年度の法人税の更正処分等を行ったことで争われました。

本事案では、独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法が適用されており、残余利益分割法において基本的利益を算定する際の比較可能取引が争点となりました。

 

2       残余利益分割法とは

残余利益分割法とは、国外関連取引の両当事者が重要な無形資産(技術・ノウハウ・ブランド等)を使用して独自の機能を果たしている場合等において、分割対象利益を①基本的利益と②残余利益とに分けて二段階の配分を行うことにより独立企業間価格を算定する方法をいいます。

  • 基本的利益は独自の機能を果たさない非関連者間の取引において得られる所得であり、国外関連取引の事業と同種の事業を営み、市場の状況等が類似する法人の事業用資産又は売上高に対する営業利益の割合等で示される利益指標に基づき計算されます。
  • 残余利益は国外関連取引の両当事者が独自の機能を果たすことにより生じた所得であり、残余利益の配分に用いる要因として無形資産の価額、無形資産の開発のために支出した費用の額等を用いることができます。

 

3       比較対象法人の適否

比較対象取引の選定においては、以下のような点を勘案する必要があるとされています(措法基通664(3)3

・棚卸資産の種類、役務の内容等

・売手又は買手の果たす機能

・契約条件

・市場の状況

・売手又は買手の事業戦略

本事案においては、市場の類似性が問題となりました。国側は基本的利益の算定にあたり、比較対象法人としてマナウスフリーゾーン外にある法人を選定したところ、東京地裁は「比較対象法人が事業活動を行う市場と検証対象法人が事業活動を行う市場とが類似するものであるということはできない」と判示しました。その上で、マナウス税恩典利益の享受の有無は比較対象法人の比較可能性に重大な影響を及ぼす有意な差異ではないとする国側の主張を排除し、国側が市場の特殊性という営業利益に大きく関わる基本的な差異につき何らの調整も行わずに基本的利益を算定したことは誤りであり、国外関連取引の対価の額が独立企業間価格に満たないものであるという立証は認められないと判示しました。

第二審の東京高裁においても一審の判断同様、市場の類似性のあるマナウスフリーゾーン内の法人を比較対象法人とすべきと判断しました。

 

お見逃しなく!

市場の類似性を判断する場合、様々な要素が考えられます。今後、OECD移転価格ガイドラインでも議論されているLocation specific advantagesの議論が深まっていくことが期待されます。

[i]  マナウスフリーゾーンは、ブラジル連邦共和国アマゾナス州に設置されたブラジル連邦憲法上設置が定められている唯一の自由貿易地域で、法人がマナウスフリーゾーンで事業活動を行うことにより、税制上の利益を享受することができる(マナウス税恩典利益)。

マナウス税恩典利益による減免の対象は、輸入税・工業製品税・法人所得税(以上、連邦税)、ICMS(州税)、法人売上げに対する社会負担金及び社会統合基金(連邦の負担金)であるところ、これらのうち営業利益に重大な影響を及ぼすのは、輸入税とICMSである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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